皆さまこんにちは!ひとしきです。
今回は「爬虫類のモルフ作出方法」について、レオパードゲッコーを例にして解説してきます。
近年では様々な爬虫類で繁殖が成功し、CB(Captive Bred)の個体が販売されています。
飼育下での繁殖が可能ということは、様々なモルフが作出できるということ。特にレオパードゲッコーはモルフの作出が盛んで、全身真っ黒の「ブラックナイト」と呼ばれるモルフも販売されています。
この記事では、モルフがどのように作り出されるのか、その遺伝的な仕組みや具体的な繁殖方法についてご紹介します。
「モルフって何?よくわかんない…」
「自家繫殖に興味があるんだけど、狙った色にするにはどうすればいいの?」
このような疑問にお答えできる内容となっております!
解説の都合上、難しい言葉や専門的な単語が多く出てきます……が、わかりやすく解説しているつもりですので、興味がある方は、ぜひ最後までご覧くださいね。
爬虫類の色や柄が決まる仕組み

爬虫類の体色や模様は、遺伝子と色素細胞の働きによって決まります。遺伝子は生物の設計図であり、どのような色素細胞がどの場所でどれだけ発達するかを制御しています。
爬虫類の場合、主に3種類の色素細胞が色彩を生み出します。
- 黒色素胞(メラノフォア)
黒や茶色の色素を持つ細胞で、体の黒斑や暗色部分を形成します。ヒョウ柄のようなスポットはメラノフォアの集まりによるものです。 - 黄・赤色素胞(キサントフォア)
黄色や赤など暖色系の色素を含む細胞です。レオパードゲッコーの明るい黄色やオレンジ色の部分はキサントフォアによる発色です。 - 虹色素胞(イリドフォア)
細胞内の結晶が光を反射・屈折させることで金属的な色や青色調を生み出す細胞です。他の色素と組み合わさることで複雑な色合いを演出します(例えば青い光+黄色色素で緑に見えるなど)
これら色素細胞の分布と密度、そして相互作用が爬虫類の多彩な体色や模様を作り出しています。
多くの爬虫類では、模様は胚発生の段階でほぼ決定され、生涯にわたり大きく変化しませんが、レオパードゲッコーは例外で、幼体の頃は体に帯状の縞模様ですが、成長するにつれてそれが細かく分断されヒョウ柄のスポット模様へと変化します。
これは成長過程でも遺伝子がプログラムしたとおりに、色素細胞がバンド(縞)からスポット(斑点)へ配置替えを行うことで、模様転換が起こると考えられています。
色素細胞による色の変化
どの色素細胞がどれだけ働くかは、「遺伝子の組み合わせ」が関係しています。
例えば、黒色素(メラニン)を産生する経路に変異が起これば、アルビノ(白化)になります。
アルビノでは黒色素胞(メラノフォア)が正常に機能せず、黒や茶の色素が作れないため、体は黄色やオレンジだけになり、目はメラニン不足で赤っぽく見えます。
一方、体全体が真っ黒に近い「メラニスティック(黒化)」個体では、黒色素胞(メラノフォア)が通常よりも多く活性化しており、黄・赤色素胞(キサントフォア)の色が目立たなくなります。
レオパードゲッコーのモルフ
レオパードゲッコーには数多くのモルフ(色彩変異)が存在しますが、その遺伝的仕組みは大きく2種類に分けられます。
一つはメンデル遺伝のルールに従うタイプ、もう一つはポリジェニック(多遺伝子)なタイプです。
メンデルの法則に従うタイプは、単一の遺伝子変異で色や柄が決まるもので、以下のようなものがあります。
- 劣性遺伝(例:アルビノやブリザード)
- 優性遺伝(例:エニグマ)
- 共優性(例:マックスノー)
Aを優性遺伝、aを劣性遺伝とすると、例えばアルビノは劣性遺伝なので、親からその変異遺伝子を『ホモ接合(aa)』でもらった子だけがアルビノとして生まれるんです。ヘテロ接合(Aa)の場合は表現型に現れないため、アルビノの特徴は見た目にはわかりません。
一方、ポリジェニック(多遺伝子)は、複数の遺伝子のわずかな効果が重なって現れるタイプです。
ラインブリード(選別交配)とも呼ばれ、世代を重ねて特徴を強めていかないと、目に見える形で発現しません。
鮮やかな体色や独特な模様(例:ハイイエローやタンジェリンなど)はこのポリジェニックによるもので、「ヘテロ状態では見た目に分からない」ということがなく、『連続的な表現型』として現れています。つまり、世代を重ねて目的の色に近づけていくという作出方法ですね。
狙った色にするには

理想とする色や柄のモルフを作出するには、どうすれば良いのでしょうか?
ここでは、「野生個体から、繁殖を繰り返して狙った色を作出する方法」について考えてみます。ポイントは、望ましい特徴を持つ個体を選び出し、その特徴を子孫に積み重ねて固定することです。
方法は、大きく分けて次の2通りですね。順番に解説していきます。
- メンデルの法則に従って単一遺伝子を固定化する方法
- 複数遺伝子を組み合わせて、段階的に特徴を強める方法
単一遺伝子を固定化する方法
まず野生由来の個体群から珍しい変異個体を探します。偶然生まれたアルビノや、一部分だけ色素が抜けたパターンレスに近い個体などですね。
ここでは、aを劣性遺伝、Aを優性遺伝として解説していきます。
見つけたら、その個体(aa)を別のノーマル個体(AAまたはAa)と交配させます。
一世代目の子(F1と呼びます)は大半が見た目ノーマルになりますが、変異が劣性遺伝であればノーマルの個体全員がヘテロ接合(Aa)になります。
次にそのF1(Aa)同士、あるいはF1の子(Aa)を親の変異個体(aa)に「戻し交配(バッククロス)」します。
するとF1同士の交配だと約1/4の確率で、戻し交配の場合は1/2の確率で、望む変異形質がホモ接合(aa)となり、表現型として現れるはずです。
狙った表現型をモルフとして確立するためには大きな規模と労力を要しますが、この方法により、単一遺伝子による色や柄を固定化することができます。
実際に、世界初のアルビノレオパードゲッコーを作出したのはこの方法で、アルビノ遺伝子を持つ可能性があったオス個体を、20匹のメスと交配し、交配後のF1をオスに戻し交配するという作出計画によって、アルビノのモルフを確立しました。
複数遺伝子を組み合わせて、段階的に特徴を強める方法
ラインブリード法とも呼ばれるこの方法では、まず野生個体や既存の飼育個体の中から、目指す特徴に近いものを選抜します。例えば「通常より黄色みが強い個体」や「スポットが極端に少ない個体」などですね。
見つけたら、その親同士を交配させます。そして交配させた親から生まれた一世代目の子(F1)の中から、最も目標に近い特徴を示す個体を選び、再度交配させます。
この選別と交配を世代ごとに繰り返すことで、徐々にその特徴が際立った系統ができてきます。
根気よく何世代も累計交配する必要がありますが、この方法により、ポリジェニック形質の特徴を持ったモルフを作出することができます。
レオパードゲッコー史上初めての「デザイナーモルフ」と言われるハイイエローはこの方法で誕生しました。ハイイエローは「黒い斑点が少なく黄色が鮮やかな個体」を親として選び続けることで作られた品種で、元々自然界にも稀に現れる特徴の個体を、人為的に固定したものです。
一世代で劇的な変化は起きにくいですが、時間をかける分中間段階の美しいバリエーションも楽しめるという利点があります。ただし近親交配を繰り返すことになるため、弊害(近交弱勢)を防ぐために、適度に他系統の血を入れる必要があります。
レオパのモルフ「ブラックナイト」の作出方法

数あるレオパードゲッコーのモルフの中でも、近年ひときわ注目を集めているのが「ブラックナイト」と呼ばれる超黒化モルフです。その名の通り漆黒の体色を持つこのモルフは、15年以上にわたる選択交配の末に作り出されたポリジェニック形質です。
ここでは、ブラックナイトの作出方法と遺伝的特徴、さらには直面した課題について専門的に解説します。
ブラックナイトの特徴
ブラックナイトは、成体になると体表のほとんどが黒~濃い茶色に覆われます。幼体ではかすかにバンド模様が見えることもありますが、成長とともにそれらは黒色に塗りつぶされるように消えてしまいます。
実は、黒さは温度によって程度影響を受けることがわかっていて、低めの温度で飼育された個体の方がより濃い黒色になる傾向があります。
一部のブリーダーが意図的に低温で育成して「より黒く」見せるケースも報告されおり、この場合、通常環境に戻した際に黒さが薄れてしまいます。
作出の経緯と方法
ブラックナイトの作出は、オランダのブリーダー、フェリー・ザウモンド氏によってスタートしました。
彼は「できるだけ黒いレオパードゲッコー」を目指し、初めはパキスタンやアフガニスタン産の野生個体群の中から色の濃いものを選抜して交配しました。それらの子孫を、再度選抜し交配するという作業をひたすら繰り返し行いました(ラインブリード法)。
交配を繰り返していくと、徐々に、生まれてくる子の中で斑点模様が消え体全体が黒ずんだ個体が増えていきました。そしてプロジェクト開始から約15年後、ついに、背中の模様が見えないほど全身が真っ黒な系統が安定して得られるようになり、これがブラックナイトと名付けられたんです。
つまりブラックナイトは「ポリジェニック(多遺伝子)な系統」であり、一世代交配しただけではその黒さは十分表現されず、代を重ね、選抜することで初めてあの漆黒を得ることができたんですね。
近親交配の弊害
ラインブリード法では近親交配を繰り返すため、遺伝的多様性の低下(近交弱勢)という問題を抱えています。系統内で近親交配が重ねられた影響で、成長が遅い、繁殖力が低いといった傾向が報告されています。
実際にブラックナイト繁殖の現場では、「メスが産む卵の多くが発生不良だったり、良い卵でも胚の死亡率が高い」「運良く孵化しても尾曲がりの奇形が出ることがあった」と報告されています。
これは近親交配に伴って潜在的な有害遺伝子が顕在化したり、雑種強勢(ヘテロシス)が失われたりするためと考えられます。
対策として、多くのブリーダーはブラックナイトラインに他系統の血を導入し、健康状態の改善と遺伝多様性の確保に努めています。
たとえば、より大型で野性に近い別亜種のEublepharis macularius afghanicus
(アフガニクス)やE. m. turcmenicus
(タークメニクス)をブラックナイトと交配し、得られた子を再びブラックナイト系に戻すという方法が取られています。この「ブラックナイト × アフガニクス/タークメニクス」プロジェクトでは、黒さを保ちつつ体格や繁殖力の向上が期待されています。
実際、ブラックナイトの血統を50%持つ個体と純粋なブラックナイトを掛け合わせることで、従来よりも健康的で、しかも非常に暗色な子孫を得ることに成功した例も出てきています。
まとめ
以上のように、ブラックナイトは長期的な選別繁殖(ラインブリード法)によって作出されたモルフですが、その維持や発展には、遺伝学的な配慮が必要なんです。
一歩間違えば、近親交配を繰り返すことによる弊害で維持ラインが衰退してしまいます。
しかし、適切なアウトクロスと選抜を組み合わせれば、さらなる改良も可能とされています。「より黒く」「より健全な」ブラックナイト系を目指すブリーダーの挑戦が続いており、今後も進化を遂げていくことでしょう。
まとめ
レオパードゲッコーを例に、爬虫類の色柄が決まる仕組みとモルフ作出の方法について解説しましたが、いかがだったでしょうか?
モルフには、単一遺伝子で決まるモルフと、多遺伝子が絡むラインブリード型のモルフがあり、繁殖方法も異なります。ブラックナイトは極端なラインブリードの成功例ですが、同時に近親交配による弊害も露呈しました。
繁殖には計画と柔軟性が求められますが、そのプロセス自体が大きな楽しみでもあります。もし繁殖に挑戦したい!と思ったら、まずは身近なモルフの健康なペアを用意し、小さくてもいいので繁殖を経験してみましょう。
次の記事では、レオパードゲッコーの繁殖にまつわるQ&Aを採り上げていきますので、こちらもぜひ、参考にしてみてくださいね。